欧米人は使わないロジカルシンキング
論理的思考力は、「ロジカルシンキング」とほぼ同じ意味を持つ日本語です。他にも、「論理思考」、「クリティカル・シンキング」など、ほぼ同じ意味。ただ、面白いのは、英語のネイティブは「ロジカルシンキング(logical thinking)」という言葉は使いません。「考えるって、当たり前にロジカルだろ?それを今さら…」のような感じで、いわば「筋肉痛が痛い」のようなジョークに聞こえてしまうそうです。むしろ、ネイティブにとっては「Critical Thinking(クリティカル・シンキング)」の方が一般的。
ちなみに、欧米のビジネススクールに入学する際の「共通一次」とでも言うべきGMAT (Graduate Management Admission Test)には、「Critical Reasoning (クリティカル・リーズニング)」というパートがあり、それ個をロジカルシンキング的な要素が問われます。
「日本人はロジカルシンキングが苦手」のウソ
ここまで読むと、「やっぱり日本人はロジカルシンキングが苦手なんだ」と思ってしまうかもしれませんが、実はこれは誤解です。戦後日本が復活を遂げた工場の現場では、「QC活動」という名の下に、ロジカルシンキングが使われていました。
QCはQuality Control (クオリティ・コントロール)の略で、そのまま訳すと「品質管理」。すなわち、工場での品質を管理し、あげるための活動です。元々は欧米で生まれた概念ですが、それが日本に取り入れられ大きく花開きます。QC活動によって日本の製品のクオリティが上がり、世界の市場を席巻するに至りました。いまでは、「カイゼン」という言葉と共に日本初のQC活動は世界に広がっています。
ちなみに、QC活動が最も盛んな企業の一つが言わずと知れたトヨタ。よく、トヨタでは「Why」を5回繰り返し聞くことが強さの源泉であるといわれます。たとえば、工場でベルトコンベアに不具合があった場合など、普通の企業だったら。
「ベルトコンベアに注いでいる潤滑油に問題があった」
という原因を発見したら、
じゃあ、その潤滑油がきっちりと回るようにしよう、
でおわりでしょう。
ところが、トヨタの場合、そこからさらに深掘りして、
「なぜ潤滑油に問題があった?」
↓
「それは潤滑油の注ぎ口の形状がマズかったから」
↓
「なぜ注ぎ口の形状がマズかった?」
↓
「それは潤滑油の粘性を考えずに、従来からあるものを使ってしまったから」
↓
「なぜ潤滑油の粘性を考えなかった?」
↓
「それは潤滑油を変えたのに気づかなかったから」
↓
…
のように、徹底的に考えて、問題の真因を解決するというのです(潤滑油の例は、あくまでもたとえです)。
ちなみに、QC活動には俗に「7つ道具」と呼ばれる思考のツールがあります。それが、下記。
- パレート図
- 特性要因図
- グラフ
- 管理図
- チェックシート
- ヒストグラム
- 散布図
- 層別
「7つ道具」と言いつつ8つあるのはご愛敬ですが、いずれもロジカルに問題点を発見し、ロジカルにそれを解決するための手法です。
たとえば、2番目に掲載されている「特性要因図」。その形から「フィッシュボーンチャート」とも呼ばれますが、様々な要因が絡まってどのように一つの問題事象を起こしているかを整理した図です。
これも先ほどのもんだインの真因を探るというのと似てますが、一つの方向性で掘り下げるのではなく、幅広く、「あれか、これか」という観点で原因を探ることができるものです。
これらの考え方は、まさにロジカルシンキングであり、日本人が得意にしているところです。
なぜホワイトカラーはロジカルシンキングができないか
一方で、ホワイトカラー(オフィスワーカー)がロジカルシンキングを苦手に感じてしまうというのも、事実としてあります。その一つの要因は、日本の企業の人事慣行にあるでしょう。
終身雇用の下で一つの組織に長く働き、しかもジョブローテーションで社内の様々な部署を経験する。そんな環境の下では、「わざわざ言わなくても分かる」というカルチャーが形成されます。いや、それどころか、論理明晰な発言をすると、「そこまで言わなくても良いじゃないか」と嫌がられることすらあるでしょう。結果、コミュニケーションの言葉が曖昧(でもなんとなく言いたいことは相手に伝わる)、という状況になり、ロジカルシンキングが求められなかったのです。
とはいえ、時代の流れで、日本企業においてもロジカルシンキングが求められるようになりました。とくに、バブル経済を過ぎて日本経済が不振にあえぐようになったあたりから、「このままではいけない」もっと明晰に考えなければ、という気運が盛り上がったように感じます。
さらに、良きにつけ悪しきにつけリストラによる人員の流動化が高まったことがこれに拍車をかけます。これまでとは違う組織で働く場合、いわゆる「あうんの呼吸」が通じないため、物事を分かりやすく考える、伝える技術が求められるようになったのです。
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