「伝える力」なんて言われて最近なにかと話題のコミュニケーションのスキル。ソムリエという「異分野」からの参入ですが、かなり参考になるのがこちら。

田崎真也著、言葉にして伝える技術――ソムリエの表現力

個々のスキルもさることながら、ソムリエというお客様との「一期一会」を要求される職業において養われた、伝えることに対する気迫が何より印象的。

内容も、ワインやソムリエの話をキッカケとし、誰にでも応用可能な(汎用的な)コミュニケーションのコツが多数触れられていて、ビジネスパーソンにも得るところ大です。

たとえば、「僕が表現力を磨くためにやっていることを簡単にまとめてみましょう。」というセリフに続いて紹介された心構えは、誰にとっても役立つでしょう。
・紋切り型の表現や先入観を捨てること
・五感を一つずつ意識して使うこと
・日常生活(とくに食事の時間)が五感トレーニングの場であると強く意識すること
・五感で感じたことをそれぞれ言葉に置き換えていくこと
・言葉を増やし、分類して言語化し、記憶すること
・相手や状況に合わせて、より受け取りやすい、適切な表現を選ぶこと
・基本はポジティブなものの見方に立って表現すること

ただ、第1章が延々と他者の批判から入ってしまったのは残念。もちろん、紋切り型の表現やなにも考えてないリアクションを見て腹立たしく思うのは分かりますが、それこそ著者自身が第三章で書いているように、「これからはもっと積極的に誉めるという習慣を身につけませんか?」と言いたいですね。

てかこれは、著者と言うよりは、編集者の力量ですかね。田崎真也というエッジの立った素材を十分にいかしきれていないと感じました。

以下、ポイントを。

●では、なぜソムリエは、五感で感じたことを言葉に置き換えるのでしょうか。五感で受け止めた感覚は、潜在的な記憶にとどまることがあっても、それだけでは、自由自在に引き出せる記憶にはなっていません。いつでも思い出し、より明確に呼び起こすためには、言葉が必要なのです。

●全国新酒鑑評会
この鑑評会で金賞を受賞するために、全国の日本酒の味わいが画一化される傾向に陥ったというマイナス面があります。あくまでも100点という酒を任意で設定し、そこから減点していく減点法での鑑評会ですから、…

●ワインをあまり飲んだ経験のない人に、二種類の赤ワインを出す。
「一般的な嗅覚の持ち主であれば、そのに種類の赤ワインが違う種類のものだとは分かります。しかしながら、どういう違いがあるかを説明してくださいとなると、なかなか難しく、おそらくはそこで言葉につまるはずです。…そのときに、こちらから『どちらのワインが渋いですか』とか、『酸味はどちらに強く感じますか』と言う質問をすれば、多少の個人差はあったとしても、何らかの形で答えられるでしょう。」

●当時(田崎氏がパリのワインスクールに通ったころ)のフランスでも、評価のイニシアティブをとっていたのは、生産者や醸造家の使用しているコメントだったのでしょう。ソムリエが、飲む側の立場から創作していたものではなかったのです。生産者や醸造家にとって、日常のワインの試飲は、欠点をチェックすることも重要な作業ですから、日本酒の利き酒用語と同様に、ネガティブなコメントが多かったのでしょう。

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