ロジカルシンキングの二大ツールロジックツリーとピラミッド・ストラクチャ。その二つを1冊の本で学んでしまおうというお得なのが河瀬先生のご著書「戦略思考コンプリートブック」です。戦略コンサルティングの分野で培った問題解決の手法を中上級者向けに説明してくれています。

ロジックツリーの悪い例がスキルアップにつながる

本書のうれしいところは、「悪い例」がたくさんのっているところ。というのは、ロジックツリーって完成型を見ると、「まあ、そんなもんかな」と納得感があるのですが、意外なほど自分でつくるのに苦労するから。むしろ、「こういう失敗ありがち、じゃあ、どうしたらクオリティ高くなるか」という完成型までのプロセスを見ることが、スキルアップには役だったりします。

たとえば、「あなたはランチに行こうとしています。行き先をどのように選ぶか、意思決定の道筋をデイジョンツリーにしなさい」と課題に対しては、3つの悪い例と1つのよい例を出してくれています。ちなみにデシジョンツリーはWhereのロジックツリーを指す筆者固有の言葉です。「択一型」との説明もありますが、複数のオプションから結論を1つに絞るための、選択肢を洗い出すために使うものです。

ロジックツリーの悪い例1

ランチにどこに行くか
 ├和食
 ├洋食
 ├中華
 ├その他エスニック
 ├二つ以上の混合
 ├…

※ロジックツリーの2段目までを紹介しましたが、本書にはもちろん深い階層まで悪い例の記載があります。

ロジックツリーの悪い例2

ランチにどこに行くか
 ├急いでいる・時間がない
 ├社員食堂
 └その他

ロジックツリーの悪い例3

ランチにどこに行くか
 ├気になる異性を誘う→この下を深掘り
 ├職場の同僚(上司・部下含む)と行く
 ├お客と行く
 └その他

ロジックツリーのいい例

ランチにどこに行くか
 ├一人で行く
 ├職場の同僚(上司・部下含む)と行く
 ├お客と行く
 └その他

しかも、河瀬先生の心憎いのは、この「いい例」として取り上げてあるものすら改善の余地を残してあるところ。単に「これが完成型だ、ドヤッ」と示すのではなく、何回でもゼロクリアして考える事の重要性を示唆するために、解答例といえども完成型の低いものを提示しているのです。

具体的には、上述「いい例」の1段目は、わざとサンマ感を残しています。だって普通は、「一人で行く」の反対は「複数人で行く」ですよね。その下に「社内」「社外」があるというのが、MECEが高いロジックツリーでしょう。すなわち、

ロジックツリーのいい例改善バージョン

ランチにどこに行くか
 ├一人で行く
 └複数人で行く
  ├社外の人と行く
  └社内の人と行く
   ├同じ階層の人(純粋な同僚)と行く
   └異なる階層の人と行く (上司・部下)

のようなロジックツリーが考えられます。これを元に改めて上述の「いい例」を見ると、サンマ感があったり、いきなり「その他」を使っていたり、ツッコミどころ満載のものをワザと掲載していることが分かるでしょう。

そしてこれは、「仮説は脈のありそうなところから掘り下げていけ」(122p)という論点につながります。

MECEやサンマ感などの用語を学ぶと、ついついそれが「目的化」しがちで、「とにかくMECEなロジックツリーをつくるんだ!」となります。が、そもそもを考えてみると、ロジックツリーは問題の本質を発見したり打ち手の選択肢を洗い出すため、すなわち問題を解決するためにあるわけです。

であれば、たとえMECEでなくとも、多少バランスは悪くとも大事な「勘所」さえ押さえておけばいいわけであり、必ずしも完成度の高いロジックツリーをつくることそのものにバリューがあるわけでないことを、河瀬先生は提言しているのでしょう。

ロジカルシンキング初心者にはリスクもある「劇薬」

ただ、読者によっては本書の意味合いを誤解をしてしまうリスクがあるかもしれません。典型的には上述の「ロジックツリーのいい例」。わざとツッコミどころを残しているという河瀬先生の深謀遠慮を読みとれない読者は、「へぇ~、この程度でMECEって言えるんだ」と思ってしまいかねません。同様に、「脈のあるところから掘り下げていけ」というのも、「自分が『ここだ』と思うところさえ深掘りすればオッケー」とも読めてしまいます。

冒頭で、本書は中上級者向けと書いたのはこの点で、MECEなロジックツリーを描ける、問題解決の方法を網羅的に考えられる、そんなレベルに達している人がぐるっと一回り戻ってきて、「MECEだって、結局は手段だよな」と再確認するために読むのが本書の有意義な使い方です。逆に言うと、そこまでできない人は、「まずは目的化してしまっていいからMECEにこだわる」というスタンスでロジックツリーを学ぶことがお勧めです。


画像はアマゾンさんからお借りしました。

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