一見とっつきにくい法律の世界。ところが、ロジカルシンキングを使えばそれがわかりやすくなるというのが、金井高志先生のご著書、「民法でみる法律学習法: 知識を整理するためのロジカルシンキング」です。弁護士や行政書士、司法書士など法律の資格を目指す方はもちろん、企業で法務に携わる方にもお勧めです。
ロジカルシンキングで身につく法律の学習法
まず、ロジカルシンキングの意味合い。著者は、
ロジカルシンキングは、法律を学習する志向のための基本ツールですから、ロジカルシンキングをきちんと理解し、ロジカルシンキングと法律を関連付けて学ぶことで、民法を含む法律は格段に理解しやすくなる
と述べます(22p)。
ホント?と思う方もご心配なく。実は著者の金井先生は法律事務所の代表であると同時に、慶應義塾大学の法学部・大学院法務研究科の講師も務められていて、学生の指導実績がふんだんにあるとか。したがって、
本書でロジカルシンキングを学ぶことにより、司法の基本法である民法を基にして法律学の学び方を身に付け、また、その特別法である商法、会社法、知的財産法(著作権法、特許法など)、労働法などの法律について学び方を身に付けることができ、ひいては、後方を含む法律学全体の学び方を習得することができる
のです(5p)。
たとえば、下記の二つの文、日常生活の中では使い分けはそれほど考え無いでしょう。
- チワワ、ブルドッグ及びコーギーは
- チワワ並びにブルドッグ及びコーギーは
ところが、ロジカルシンキングを使って法律の学習法が身についた人にとっては、意味はまったく異なってくるとか。答えは95pにありますので、ご興味がある方はぜひ本書を手にとってみてください。
ロジカルシンキングの全体像
では、著者の考えるロジカルシンキングの全体像をみてみましょう。
- ロジカルプレゼンテーション
- 狭義のロジカルシンキング
- 思考方法
- ゼロベース思考
- フレームワーク思考
- オプション思考
- 図表作成手法
- ロジックツリー手法
- マトリックス手法
- プロセス手法
- 思考方法
となります。ちなみに上述の「ロジカルプレゼンテーション」は、いわゆるプレゼンテーション、つまりパワーポイントのスライドを投影する説明と言うよりも、より広いロジカルコミュニケーションを指すと思われます。
そもそもこのように全体を細かい要素に細分化し、その要素間の関係を明らかにするという考え方自体ロジカルシンキングですし、このような考え方がそのまま法律に使えるとのこと。具体的には、一口に「契約」と言っても、
- 典型契約(有名契約)
- 売買契約
- 賃貸借契約
- 非典型契約(無名契約
- 旅客運送契約
- 電話利用契約
- プロバイダー契約
- 製作物供給契約
と整理するとわかりやすくなるのだとか(20p)。ちなみに、上記は契約に関するものだけですが、「民法典の体系」と、民法の全体像をロジックツリーで整理した図が167pに掲載されていて、とてもわかりやすいと感じました。
聞き手に期待した行動をとってもらうロジカルプレゼンテーション
では、ロジカルプレゼンテーションもみてみましょう。上述のとおり、ここで言う「プレゼンテーション」は、いわゆるプレゼンではなくもっと広い意味でのコミュニケーションを指します。学生をゼミで指導する中で、「そういう言い方では伝わらないよ」と感じたことが契機になってこのロジカルプレゼンテーションの重要性を認識されたのではないかと拝察します。
そのロジカルプレゼンテーションですが、下記の三つの必要条件を著者は挙げています。
- 相手に対して答えるべき課題(テーマ)が明らかになっていること
- 課題に対する答えを説明する相手に期待する反応(説明内容の理解、説明内容に基づく意志決定、説明内容に対する行動など)が明らかになっていること
- 課題(テーマ)に対して必要な要素を満たした答えとなっていること
なんとなく、法廷で「異議あり!」と言っている弁護士さんの姿が目に浮かんできます。あるいは、2番目は、「プレゼンテーションのLeADER原則」そのままであり、ここに筆者が「プレゼンテーション」という言葉をあえて使った意味があると思われます。
一般ビジネスパーソンにはハードルが高い言い回し
さて、様々な観点で有用な本書ですが、文章が読みにくいのが難点。法律関係者には違和感はないのかもしれませんが、一般のビジネスパーソンにはなじめない言い回しがありました。たとえば、冒頭で紹介した文章を改めて見直してみましょう。
ロジカルシンキングは、法律を学習する志向のための基本ツールですから、ロジカルシンキングをきちんと理解し、ロジカルシンキングと法律を関連付けて学ぶことで、民法を含む法律は格段に理解しやすくなる
一文、95文字の中に「ロジカルシンキング」という単語が3回も出てきて、なんだかくどく感じます。というか、逆にそのせいで論旨が不明確になっているような気も。
あるいは、二番目に引用した文章は、140字以上が読点(、)で続けられて、これまた意味がとりにくくなっています。したがって、一般ビジネスパーソンには若干ハードルが高くなってしまっているのが残念と感じました。
画像はアマゾンさんからお借りしました