2016-10-30

ロジカルシンキングの研修をウェブ上でお届けする試みとして、ロジカルシンキングのロングセラー、岡田、照屋両先生のご著書「ロジカルシンキング 論理的な思考と構成のスキル」(以下、本書と呼びます)の回答例を示します。

今回は「論理パターンの基本をマスターしよう」というテーマから、p162のダイエット商品の事業化です。

まずは設問から(ウェブ上で分かりやすく見せるため、問題の趣旨を損なわない範囲で一部見せ方を変えています)。

空欄A、Bに、(1)~(4)の中の適切なものを入れて、正しい論理パターンを作ってみよう。

課題:当社はダイエットをテーマとする商品事業化に取り組むべきか?

結論(A) 「  」

事実:ダイエットという切り口で市場を見るとかなりの規模が見込まれる。また、消費者は痩せさえすればよいのではなく、「毎日手軽に食べられるおしゃれなダイエット食品を求めている。これに対し競合各社は横一線の状況だが、当社にはスパイスの特許などいくつかの優位性がある。

判断基準(B):「   」

判断内容:ダイエットパスタソースは当社の強みが活かされ事業としても大きな可能性を持っており、当社は積極的に取り組むべきである。その際、「毎日手軽に食べられるおいしいダイエット食」という新しい商品カテゴリーの一番手となることが重要で、事業化のスピードが決め手となる。

ヒント1:結論(A)がどのような内容ならば、この課題の答の核になり得るのか?「事業化に取り組むべきか?」という課題に答えるには、最終的にどういう類の答えがあり得るか?該当する選択肢は1つしかない。

ヒント2:この論理パターンは解説型だ。解説型の場合、根拠間の横方向の関係は、「事実」→「判断基準」→「判断内容」となる。判断基準にあたる根拠(B)は、この課題を考えたとき、何を判断する基準になるべきだろうか?(B)の選択肢として妥当性のある内容とはどのようなものなのか?

チェック:Bに選択肢を入れて、3つの根拠を順に説明したときに、その内容に一貫性があり、それらと結論(A)がSo What?/Why So?の関係になるだろうか?

  1. このような現状を踏まえ、ダイエットをテーマとするパスタソースの事業化の是非を考える上では、自社の強みが活かせるのか、競争は激しすぎないか、儲かるのかという3点を、判断基準とする。
  2. 薬やコンニャク、ゆで卵などに頼るダイエット法は、まずくて続かない、不健康と不評で、きちんと食事をして健康に痩せることがトレンドになりつつある。既存のダイエット食品は、味やおしゃれっぽさの点で不満が高く、顧客は特定ブランドを継続的に選択してはいない。
  3. ダイエット食を専門に扱っている食品メーカーもあるが、糖尿病などの治療用のコントロール食に特化し、医療用のチャネルのみで販売し一般市場には出ていない。
  4. ダイエット志向の食品市場は、未だニーズに合った商品はないが、ポテンシャルは大きい。当社は、「毎日手軽に食べられておいしいダイエット食」という新商品カテゴリーの開発者を目指して、事業化に早急に取り組むべきである。

ロジカルシンキングの結論は、ダイレクトに課題に答えるもの

まず、留意点としては、「解説型」の論理パターンはちょっと苦しいのではないか、というものがあります。後述しますが今回の課題においても「判断内容」が「結論」と近い文言になってしまっているので、重複感が出てしまっており、「解説型」の苦しさにつながっています。

この点を一時脇において解答に取り組むとなると、まず注目するのは「ヒント1」。課題である「事業化に取り組むべきか?」に答える結論は、末尾が「事業化に早急に取り組むべきである」となっている4番しかありません。まさに「該当する選択肢は1つしかない」というヒントの文言そのままです。ただ、先ほど書いたとおり、結論をこの選択肢にしてしまうと、「判断内容」と「結論」が同じような文言になってしまうのが悩ましいところです。

本当の意味でのロジカルシンキングの力をつける

次に(B)を検討しますが、これは「ヒント2」にあるとおり「判断基準」です。この観点から残りの選択肢を見ると、(2)は「薬やコンニャク…(中略)…既存のダイエット食品は…」というものですから、詩情や競合の情報を述べているものであり、「判断基準」にはそぐわないことになります。次の(3)も、競合、もしくは競合のチャネル(4Pで言うと「プレース」)の話ですから、「判断基準」としては適さないと判断します。結果、消去法で残った(1)が(B)に入ることになります。

ただ、ここでいくつかの違和感を持つ人も出てくるかもしれません。まずは、「パスタソース」。(1)には「…パスタソースの事業化の是非を考える上では…」とありますが、そもそもの課題は「当社はダイエットをテーマとする商品事業化…」です。なぜ、幅広く考えるべき「当社はダイエットをテーマとする商品事業化」で始まった話の中が突然、「パスタソースの事業化」になってしまうか、理解に苦しむ人もいるのではないでしょうか。

実はこれは、「落とし穴」で、課題は本来は「当社のパスタソース事業ではダイエットをテーマとする商品事業化に取り組むべきか?」となるべきところを、上述の通り「当社は…」という文言になってしまっているのです。

実は、この問題の「事実」で述べられている「ダイエットという切り口で市場を見ると…」という文言は、前ページの例題、「ダイエットという切り口からみると、当社のパスタソース事業の現状はどうなっているのか?」の「結論」をそのまま持ってきています。すなわち、この二つの課題が連続しているので、課題は「パスタソース」となるのです。したがって、本書の読者はこの課題に取り組む際には、課題を「当社は…」ではなく「当社のパスタソース事業では…」と読みかえることをお勧めします。

ちなみに、このような「落とし穴」が多数用意されているのも本書の魅力です。外資系コンサルで長らくお仕事をされてきた著者の両先生は、そのご経験から得た「一見当たり前と思えるものでも疑ってかかるべき」というメッセージを読者に伝えたいのではないでしょうか。そのぐらい考え抜く経験を経ないと、ロジカルシンキングの本当の力は付かないよ、と。なので、ここでは、「ロジカルシンキングをテーマにした書籍の課題設定に間違いがあるわけではない」という私たちの「当たり前」を、根底から揺さぶるような課題設定になっているのです。

判断基準はボトムアップ?トップダウン?

さて、次の違和感にいきましょう。それが、「3点の判断基準」です。(B)に入るべき文言、(1)では、3点の判断基準として、

  • 自社の強みが活かせるのか
  • 競争は激しすぎないか
  • 儲かるのか

を挙げていますが、なぜこの3点が判断基準となるかが明示されていないところに違和感の源泉があります。判断基準というのは、市場の状況からボトムアップに出てくるものではありません。あくまでもその会社なりの「基準」があり、それをいわば「定規」として市場の状況に当てはめて、「ゴーサインか、ノーゴーなのか」の結論を導き出すというのが通常の意思決定のプロセスであり、いわばトップダウンのアプローチです。もしもこの「定規」がボトムアップになってしまうと本末転倒。「市場の状況がこうである」→「だから『定規』はこうあるべきだ」→「その『定規』に照らし合わせると事業化はゴーサインだ」という議論は、「お手盛り」、つまり「自分の主張に都合の良い『定規』を当てはめているだけではないか」という批判を免れないでしょう。

では、この「判断基準」を、市場の情報によらない確固としたものにするとすれば、どのようになるでしょうか?たとえば3Cを援用するならば、

  • 自社の強みが活かせるのか
  • 競争は激しすぎないか
  • 顧客は十分いるのか

などが考えられます。あるいは、「儲かるのか」を軸に考えるならば、

  • 投資額はいくらか
  • 回収できる金額はいくらか
  • 何年で回収できるのか

と言う3点セットも十分あり得ます。

もちろん、この「判断基準がボトムアップになっているおかしさ」も、著者の両先生から読者へのメッセージです。設問の「チェック!」で述べられている、「3つの根拠を順に説明したときに…So What?/Why So?の関係になるだろうか?」というセリフは、この点気付くべきだ、との示唆なのです。

※この回答例と解説はロジカルシンキング・カレッジの考えを示すものであり、本書の著者が提示した回答例ではありません。

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