コミュニケーションにおける一分野にカウンセリングがあります。ともすると、病気の人とか悩みを持った人を治療する目的だけに見えますが、実はビジネスのコミュニケーションにおいても役立つところがあります。こんな興味を持つ人が手にとってしまうかもしれないのが、平木典子先生のご著書、「新版 カウンセリングの話 (朝日選書)」です。
若干解説に冗長なところはありますが、人間の双方向のコミュニケーション<インタラクション>を科学的に分析しようと言う試みを概説した本としては非常に参考になります。
新書サイズという分量と対象者を考えると、広く浅く概観したものですが、たとえばこの本を読んで興味を持った分野をもっと掘り下げてみるというアプローチはあり得るわけで、「入り口」としてのこの本の意義は大きいと感じました。
ちなみに著者の平木先生は、「アサーション」などの分野でも人気の方です。平木先生の世界観に触れたい方も、まずは本書を手にとってはいかがでしょうか。
「理屈で分かっていても出来ない」部下
部下を指導する際、当然その行動の改善を目指します。基本的なスタンスは、部下の強みに注目したアプローチですが、そうは言っても改善を促す必要も出てきます。
ただしどうしたとき、「理屈では分かっているんですが、出来ないんですよ」という部下がときどきいます。たとえば、電話でお客様に「丁寧に対応する」というシチュエーションを考えてみましょう。それも漠然とした「相手に寄り添う」という曖昧な表現でとどめずに、
- 相手の話をさえぎらず聞く
- 語尾を繰り返す相づちを打つ
- 自分の話すペースは300WPMにする
という具体的(アクショナブル)な指示です。ところが、部下の中には、理解は出来ても「そうは言っても、自分の意見を言いたくなっちゃうんです」という人がいるのです。
この理由の一つは、頭で分かっている「知識」がスキル化されていないとき。これは練習とフィードバックによって改善していくことになります。ただ、もう一つ理由があり、それが心理的な傾向、つまり「自分の意見を言わなければいけないんだ!」という間違った思い込みがある可能性が高いものです。このような場合、部下の指導にカウンセリング技法の中でも認知行動療法的なアプローチが役立ちます。
認知行動療法の3ステップ
認知行動療法では、人はそれぞれ固有の「考え方のクセ」があり、これを変えることが可能であると考えます。たとえば上述のお客様との電話で言えば、「自分の意見を言わなくちゃいけない」というのが考え方のクセです。これを変えるためには下記の3ステップで進められます。
- その時の状況と相手の気持ちを聞く
- 相手の行動パターンを明確にし、別の行動を支援する
- 別の行動が支援無しでも出来るようにする
もちろん、カウンセリングは本格的な訓練を受けた人がやるべきものであり、シロートが採り入れるのは難しいかもしれません。しかし、少なくとも頭ごなしに「そういう対応ではダメじゃないか!」と叱るよりも効果があるのではないでしょうか。
心理テストの源流は戦争にあった
部下育成に関して、本書の中でもう一つ注目すべきが教育測定(educational measurement)です。要するに、その部下の学習度合いがどのくらいなのか、あるいはそもそもその部下の適性はどのようなものかを判定することです。
もともとはソーンダイクによって提唱されたものですが、実は発展の背後には戦争の影響があったそうです。
幸か不幸か、心理学という分野は戦争によって発展することが多い。国の命運をかけて国同士が戦うには人間を有効に使わなければならない。そこで人間の研究が盛んになり、人間をもっと有効に活用するために、人間を測定する技術も発達するのである。
ここからさまざまな心理テストが生まれるわけですが、そうは言っても限界があることは、心しておかなければならないでしょう。
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