認知心理学の視点からロジカル・ライティングを逆から見た本が、西林先生のご著書、「わかったつもり 読解力がつかない本当の原因」です。いかに人の書いた文書を読むかのノウハウがわかれば、ロジカルなライティングの参考にもなるでしょう。とくに本書では、後から考えて不充分だというわかり方を「わかったつもり」というキーワードでまとめて解説してくれています。
ちなみに、著者の西林先生は宮城教育大学教育学部の教授。本書でも心理学の知見や、実験結果からいかに「わかったつもり」が形成されるかを解き明かしています。
目次
ロジカルライティング~わかったつもり 読解力がつかない本当の原因
「わかったつもり」を引き起こす要因として、著者は下記の点を挙げています。
- 文脈がわからないと「わからない」
- 文脈がスキーマを発動し文脈からの情報と共同としてはたらく
- 文脈がそれぞれの部分の記述から意味を引き出す
- 文脈が異なれば、異なる意味が引き出される
- 文脈に引き出されたそれぞれの意味の間で関連ができることが文が分かる
これだけだとわかりにくいので、著者の言葉を引用してみましょう。
文章や文において、その部分間に関連がつかないと、「わからない」という状態を生じます。逆にいえば、部分間に関連がつくと、「わかった」という状態を生じます。
とのこと。なお、スキーマという言葉が出てきますが、これは心理学の用語で、
スキーマは私たちの中にすでに存在しているひとまとまりの知識です。「何の話かがわからなければ、話がわからない」のは、どのスキーマを使って良いのか分からないという状態が生じているためなのです。
と説明されています。
ロジカルライティングのチェックの問題も
また、この「わかったつもり」の状態は、「わからない部分はない」という状態で安定してしまっているため、「わかりたい」「もう少しわかりたい」といって調べる行為を妨害してしまっているそうです。わからないことよりも、「わかったつもり」となってしまっていることの方がはるかに問題だという耳の痛い、非常に説得力のある一冊。
多くの例題が掲載されているため、自分自身のスキルをチェックしながら読み進めることができます。ちなみに、amazonの書評では、“ひっかかるまい”と思ってもひっかかってしまい少々悔しい思いをしつつも「想像よりもはるかに面白かった!」という感想が寄せられています。
実際にロジカル・ライティングに使えそうな設問を1つ紹介しましょう。鶴の恩返し(木下順二の夕鶴)を題材にして、麻柄先生が行った心理学の実験です。
この作品で、つうがよひょうのもとへやって来て布を織った理由を 、助けてもらったことへの「恩返し」として読むことは正しいだろうか。この読みは文章に即して否定される。例えば作品中には「そのよひょうの親切が嬉しくて、鶴は「つう」という女になって、よひょうのところへおよめに来たのでした」 、つう願いはお金でも都でもなく、ただ、よひょうと、2人で楽しく働きながら、いつまでもいつまでも一緒に暮らしていきた、ということだけだったのです」とあるからである。
と言う文章を示した上で、「つうは、なぜ、美しい布を織ったと思いますか?」という質問をして、大学生に選択肢を選ばせた結果が下記になります。
- ア 恩返しをするため 63%
- イ お金持ちになるため 0%
- ウ よひょうと楽しいひとときを過ごすため 33%
- エ わからない 4%
実は多くの学生は間違った選択肢である「ア」を選んでしまっていて、ここにスキーマの影響を見て取れる、との結論になっています(正解は、本書をチェックください)。
ロジカルライティングの参考になる「わかったつもり 読解力がつかない本当の原因」の目次
- 第1章 「読み」が深まらないのはなぜか?
- 第2章 「読み」における文脈のはたらき
- 第3章 これが「わかったつもり」だ
- 第4章 さまざまな「わかったつもり」
- 第5章 「わかったつもり」の壊し方
画像はアマゾンさんからお借りしました。
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