ロジカルシンキングは筋道立てた問題解決とコミュニケーション
ロジカルシンキングは論理的思考とも言われ、モノゴトを筋道立てて考える事です。
1990年代後半からその重要性を増し、今やビジネスパーソンにとっては「できて当たり前」、逆に言えばできないと損をするとまで言われています。
具体的には、ビジネスにおいては問題解決とコミュニケーションの二つがロジカルシンキングの応用分野です。つまり、ビジネス上で起こったさまざまな問題を筋道立てて解決する、そしてそれを上司に報告したり関係部署に連絡するというイメージです。
ロジカルシンキングのもう一つの特徴は、様々な「思考のツール」を使うことにあります。単に「モノゴトを筋道立てて考える」と言っても、ゼロから自分の頭で発想するわけではなく、ロジックツリーやピラミッド・ストラクチャと呼ばれる図を使いながら考えることにより、よりよいビジネス上の結果につながります。
ロジカルシンキングは「思考のスポーツ」
むしろロジカルシンキングはスポーツに似ているところがあります。たとえば野球を例に考えてみましょう。バットの握り方はこうでグローブのはめ方はこう…というのを知るだけでは「野球をやっている」とは言えません。実際にバットを使って相手が投げたボールを打ち、塁に進んで得点する…という行動に移してはじめて野球をやっていることになります。
ロジカルシンキングも似たようなもので、ロジックツリーやピラミッド・ストラクチャを実際にビジネスの現場で使って成果を上げてはじめてロジカルシンキングをやっているといわれるのです。
スポーツの例えが有効なもう一つの側面は、トレーニングが必要なことです。
ふたたび野球の例に戻ると、相手の投げた玉をバットで打つと言うことが分かっても、実際にバッターボックスにたってそれを実行するためには、事前のトレーニングが必要になります。素振りをして、ティーバッティングをして、ピッチングマシーンでボールになれて…と、準備があってこそはじめてパフォーマンスを上げることができるのです。
ロジカルシンキングも同様で、問題解決もコミュニケーションも、ビジネスで「使える」レベルになるためにはある程度のトレーニングが必要です。それどころか、ロジカルシンキングを学びはじめた当初は、これまで自然とやっていたコミュニケーションが複雑なものに見えて、やたらと時間がかかったりして違和感を感じることが多いものです。
それはまるで、草野球をやっていたときに身についた自己流のフォームをちゃんとしたものに変えるときに感じる窮屈さのようなものかもしれません。でも、きれいなフォームを身につけた方がパフォーマンスが上がるのはご存じの通りです。
外資系コンサルタントはロジカルシンキングをコーチに鍛えられた
ロジカルシンキングもまったく同じ…というか、より難易度が高いかもしれません。「シンキング」すなわち思考法であるがゆえに、「自分がほんとうにできているのか」を客観的に判断することが難しいのです。バッティングフォームであれば鏡を見たりビデオに撮ったりができますが、ロジカルシンキングの場合に図りに自分が話しているところをビデオにとっても、判断する自分の思考がロジカルでなければ、正しい方向には行き着きません。
外資系コンサルタントと言えばロジカルシンキングができる筆頭ですが、それも入社した後に先輩や上司から徹底的に鍛えられるからです。新人コンサルタントがやるのは、クライアント企業に提出する報告書の下書きです。それに対して上司から厳しいツッコミが入り、何度も何度も書き直しを命ぜられるのです。そんな「コーチの下でのトレーニング」によって鍛えられるからこそ、外資系コンサルタントはロジカルシンキングが使えるのです。
世の中には「外資系コンサルタントの○○法」のような本がたくさんあります。その内容はもちろん間違いないものですが、実は本を読んだ「だけ」では身につきません。上述の通り、本と同じ思考法によりコーチに鍛えてもらうのがロジカルシンキングを身につける最も早い方法です。
実はこれは大学教育の中で本来的には行われるものでしょう。ゼミに属して卒業論文を書くことは、担当教授からそのロジック<論理的整合性>を突っ込まれることに他ならないのですから。実際、欧米の大学では論文の書き方には厳密なルールがあり、大学を卒業した人ならばロジカルシンキングができると目されています。結果として、ビジネスパーソンになってからあらためてロジカルシンキングを学ぶ必要性はなくなります。
ロジカルシンキングは日本経済の行き詰まりから生まれた
当時は、大手金融機関が破綻するなど日本経済は惨憺たる状況です。「これまでとはビジネスのやり方を変えねばならない」ということで、欧米的な方法論であるロジカルシンキングがもてはやされるようになりました。
と言って、その以前にロジカルシンキングが全くなかったわけではありません。
コンサルティング業界では従来からロジカルシンキングを使った問題解決の方法論が各ファーム<会社>ごとに共有されていましたし、実際のところ現在広く流布しているロジカルシンキングの用語もコンサルティング会社発のものが少なくありません。
もしくは、生産現場においても「物事を筋道立てて考えて、生産効率を上げたり、製品のクオリティを高めよう」という行動は、QC活動という形で実践されていました。「QC七つ道具」と呼ばれる様々な技法の中には、これぞまさしくロジカルシンキングと言えるものも少なくありません。
結果として製造業は戦後を通じて日本経済の発展を支えるまでになったのですが、一方で事務仕事(ホワイトカラー)においては生産効率が高まらないままでした。典型的には、会議の進め方が非効率で、「そもそも何を議論しているか分からない」事すらあり、これが1990年代後半の危機をもたらしたと言ってもいいでしょう。
ただ、物事を曖昧のままとどめておく、「アンチ・ロジカルシンキング」とでもいうべき感性は日本人に深く根ざしているので、ロジカルシンキングの力を身につけるためには、発想の転換と知識として理解したことのスキル化が必要です。これが、1990年代に始まったロジカルシンキングのブームの背景です。
ロジカルシンキングの全体像
- 応用2分野
- 問題解決
- 主張 (コミュニケーション)
- 基本5分野
- 事象の分解
- 事象の統合
- 論点の範囲
- フレームワーク思考
- 仮説思考
コミュニケーションは、その名の通り、ビジネスにおいて意思伝達を効率的にすることで、さらに細分化すると下記に分類されます。
- 日常のビジネスのコミュニケーション
- ロジカル・ライティング
- ロジカル・プレゼンテーション
一方の問題解決は、明確な問題(困ったこと)を解決するとともに、より良くできるところを改善することも含めた、広い意味での問題解決であり、現状と「あるべき姿」とのギャップを埋めるための行動と捉えると、イメージがつきやすいでしょう。
さらに具体的には、下記の通り問題の類型によって分類されます。
- 潜在型問題解決(狭い意味での問題解決)
- 顕在型問題解決
- プラスアルファ型問題解決(ロジカル企画、ロジカル営業)
- 機会損失回復型問題解決
※問題解決の詳細は、ロジカルシンキングを使った問題解決の4類型で述べます。
ロジカルシンキングの基本分野は、上記の応用分野をより上手にこなすための要素技術を指します。
「事象の分解」は、事象(モノゴト)を細かく細分化することを指し、問題解決において、どこに問題が発生しているかを探ることなどがその典型です。これを司る思考のツールがロジックツリーです。
一方、「事象の統合」は上述の分解と逆の考え方で、分解したものを「要するに」という観点でまとめてることです。ロジカル・コミュニケーションにおけるメッセージの結晶化がその典型であり、ピラミッド・ストラクチャがこれを担う主たる思考のツールです。
「論点の範囲」は、論点、すなわち「今ここで考えるべきこと」の範囲を定め、その中で問題を解決したりコミュニケーションを図ることを指します。日常のビジネスにおいても「話が飛んでいる」、つまり、論点が「あっちに行ったり、こっちに行ったり」という状況が見られますが、これはロジカルではありません。事前に決めた論点の中に議論を収斂させることが、ロジカルシンキングでは求められます。
「フレームワーク思考」は、フレームワーク、すなわちビジネスを分析するための枠組みを指し、何かを考えるときに漠然とではなく、フレームワークを使って思考することを指します。
最後の「仮説思考」は、まずは手元の情報から仮説、すなわち現時点での仮置きの結論を出すという思考形態を指します。
ロジカルシンキングセミナーの選び方
ただし、ここで気をつけなければいけないのは、「ロジカルシンキング」を謳っているセミナーであってもそのクオリティはまちまちなこと。セミナーを主催するのに資格が必要なわけではありませんから、理屈でいえば誰だって「ロジカルシンキングのセミナーをやります!」と言えてしまうのです。
そこで、ひとつの目安を紹介すると、セミナーの内容に則した書籍が発売されているかどうかをチェックしてみてください。書籍があると言うことは、ある意味出版社がその内容に関してお墨付きを与えたようなものです。これならば、視覚がないロジカルシンキングの世界でも、「誰かに認められている」という証明になります。
そして、もう一つの目安が、セミナー終了後のフォローアップが充実しているかどうかです。
というのも、これまで述べてきたとおり、ロジカルシンキングはセミナーでそのコンセプトがわかったからといって、必ずしもビジネスで使えるようにはならないから。セミナーで「分かった」ことが実際に「できる」ようになるためには、やはりそれなりの訓練が必要であり、たとえばメールマガジンなどでセミナーの後で継続的にスキルアップするチャンスがあるならば、安心して参加することが出来るでしょう。