2016-11-07

ロジカルシンキングの研修をウェブ上でお届けする試みとして、ロジカルシンキングのロングセラー、岡田、照屋両先生のご著書「ロジカルシンキング 論理的な思考と構成のスキル」(以下、本書と呼びます)の回答例を示します。

今回はロジカルシンキング集中トレーニング3-2「非論理的なものを見抜く力を付けよう」から、問題1の「キッズチャンプ」(169p)。下記に示した設問分のまとめは不十分であるとの前提の下、改善案を考えるのがテーマです。

ロジカルシンキングの設問

キッズチャンプは、マーケティングの各面で、既存事業の活用と親のニーズに応えることを徹底して行っている。要因は以下の3点にまとめられる。

要因1:少子化によって親のエネルギーが1人や2人の子供に集中し、乳幼児の教育熱が高まる一方で、働く母親も急増している。

要因2:単に教えるための道具ではなく、子供とのコミュニケーションに悩む親が、子供との自然なやりとりの中でしつけや教育ができるよう、教材が工夫されている。また、親同士の情報交換を目的にした情報誌も配布しており、これらの点が多くの親に支持されている。

要因3:業界屈指の発行部数を誇る、X社母親向け月刊誌「素敵なママ」と「こうのとりの贈りもの」の読者を対象に、DMによる会員獲得を行い成果をあげている。会員数120万人というスケールメリットゆえに実現できている受講料月額1700円という、他の乳幼児教育プログラムに比べて極めて安く、優位性のある価格も入会者の高い評価をうけている。

ヒント1を参考にすると、4Pで情報を整理することになりますから、単純に考えると下記の通りとなります。

キッズチャンプは、マーケティングの各面で、既存事業の活用と親のニーズに応えることを徹底して行っている。要因は以下の4点にまとめられる。

Product (製品):単に教えるための道具ではなく、子供とのコミュニケーションに悩む親が、子供との自然なやりとりの中でしつけや教育ができるよう、教材が工夫されている。また、親同士の情報交換を目的にした情報誌も配布しており、これらの点が多くの親に支持されている。

Price (価格):会員数120万人というスケールメリットゆえに実現できている受講料月額1700円という、他の乳幼児教育プログラムに比べて極めて安く、優位性のある価格も入会者の高い評価をうけている。

Promotion (プロモーション):業界屈指の発行部数を誇る、X社母親向け月刊誌「素敵なママ」と「こうのとりの贈りもの」の読者を対象に、DMによる会員獲得を行い成果をあげている。

Place (販売チャネル):働く母親の急増を背景に、申込~サービス提供まで通信(郵送)で済ませて手間がかからないというメリットを提供している。

ヒント2を参考に、もともとの要因2をそのままProductと読みかえ、要因3をPriceとPromotionの二つに分けました。このままだとPlace (販売チャネル)に入る情報がないので、これもヒント2を参考に要因1を読みかえて、申込、もしくはサービス提供をチャネルとして文章にしました。

不整合というマーケティングの4Pの弱点

一方で、これ「だけ」で終わらないのが本書の面白いところ。もちろん上記の例でもロジックは成立はしていますが、よく考えてみるとおかしいことに気づきます。たとえばヒント2には、

要因1は、市場の動向を説明しているだけで、そもそもマーケティングの構成要素にならない。

とありますが、マーケティング、すなわち「ものやサービスが売れるための仕組み作り」において、市場動向を無視するということはあり得ません。というか、実は今回の演習でも使われたフレームワーク、マーケティングの4Pは、個々の要素の独立性が高く、あっちの施策とこっちの施策がチグハグになってしまうという弱点をはらんでいます。たとえば、大衆的な食材を売るときに(Price, Product)、紀伊國屋や成城石井などの高級志向のスーパーの店頭(Place)に並べても意味はないでしょう。このように整合性のないマーケティングミックスであるがゆえに失敗する商材はありえます。じつは、これを回避するのが「市場の動向」を押さえることで、マーケティングの3Cによる環境分析→STPによるターゲティング、ポジショニングを考えることで、最後の実行フェーズのマーケティングの4Pにおいて整合性が比較的高まるのです。

この観点から、改めて要因1を見てみましょう。

要因1:少子化によって親のエネルギーが1人や2人の子供に集中し、乳幼児の教育熱が高まる一方で、働く母親も急増している。

と言う情報を解釈すると、何が浮かびあがってくるでしょうか?「働く」ということでその家計の可処分所得が増加するということは十分な根拠を持って想像できます。また、少子化という要素を考えると、1人の子供に使える教育費が上昇すると言ってもいいでしょう。

一方で、X社のキッズチャンプは

受講料月額1700円という、他の乳幼児教育プログラムに比べて極めて安く

と言うことですから、ここに整合性のなさを見て取ることができます。

また、

Promotion (プロモーション):業界屈指の発行部数を誇る、X社母親向け月刊誌「素敵なママ」と「こうのとりの贈りもの」の読者を対象に、DMによる会員獲得を行い成果をあげている。

に関しても、疑問を呈しても良いかもしれません。日本における雑誌の市場は、1995年をピークに減少に転じています。本書の発行年は2001年ですから、このトレンドは不可逆であり、今後はネットによる情報提供に大きくシフトしていくことは十分に想像できたのではないかと思います。X社のネットへの取り組みに関しては情報がないのですが、仮に情報がないことを取り組みがないことだと読みとると、X社は市場の動向にすばやく対応できていない、と考えるのもあながち間違いではないでしょう。

キッズチャンプは、マーケティングの各面で、既存事業の活用と親のニーズに応えることを徹底して行っている。要因は以下の4点にまとめられる。

高品質な乳幼児向け通信教材へのニーズは高いが、既存の販売形態にあぐらをかくX社は市場動向にすばやく対応できていない

市場動向:共稼ぎ・少子化により一人当たりの子供への教育費が増えている

Product (製品):単に教えるための道具ではなく、子供とのコミュニケーションに悩む親が、子供との自然なやりとりの中でしつけや教育ができるよう、教材が工夫されている。また、親同士の情報交換を目的にした情報誌も配布しており、これらの点が多くの親に支持されている。

Price (価格):会員数120万人というスケールメリットゆえに実現できている受講料月額1700円という、他の乳幼児教育プログラムに比べて極めて安く、これを高く評価する入会者もいる

Promotion (プロモーション):業界屈指の発行部数を誇る、X社母親向け月刊誌「素敵なママ」と「こうのとりの贈りもの」の読者を対象に、DMによる会員獲得を行い成果をあげているが、雑誌情報が紙からデジタルにシフトする流れには対応できていない

Place (販売チャネル):働く母親の急増を背景に、申込~サービス提供まで通信(郵送)で済ませて手間がかからないというメリットを提供している。ネットを使えばこの顧客層にさらなる利便性を提供できる

健全な批判意識を持つのがロジカルシンキング

もちろん、上記の解答例は「深読み」をした結果です。ただ、ロジカルシンキングを身につけるには、このような健全な批判意識を持って考えることは必須になります。漫然と本書を読んでも、「なんとなく」分かったような気にしかなりません。もしくは、せっかく盛り込まれている例題・問題も、「とりあえず考えただけ」では、ビジネスの現場で使えるスキルは身に付きません。

たとえば上記の解答例も、「市場の動向」に関して違和感を持ち、そこをきっかけに「深読み」するクセをつけると、本書の効果がより高くなります。

※この回答例と解説はロジカルシンキング・カレッジの考えを示すものであり、本書の著者が提示した回答例ではありません。

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